デザインしたのはポルシェのフラッグシップカーである911のデザインも手がけたブッツィ・ポルシェ氏。この時計とクルマのあいだには明らかな視覚的親和性があり、カーデザインを時計デザインにセンスよく応用した名作と言われている。
復活したクロノグラフ1は500本製造されたが、現時点ではすべて完売している。発売当時、誰も知らなかったのは、フェルディ・ポルシェ氏がポルシェデザインと合意して、この時計を50本だけ確保していたことだ。それは、アイスレース文化を史上初めて腕にも、というマスタープランの一部だった。
50本を確保すると、フェルディ氏とティノ氏は、自分たちが築き上げたアイスレース文化に敬意を表して、限定モデルのデザインに取り掛かった。「文字盤にロゴを入れるべきだとか、色を変えるべきだとか、いろいろ言われたんです。でも、ダメなんです。完璧を乱すことはできない」とフェルディ。彼の普段使いの時計は、PVDコーティングが剥がれるまで使ったポルシェデザインのエテルナ ヘリテージ25周年記念モデルで、叔父の作品に対する甥の敬愛を物語っているようだ。
できる限りオリジナルに忠実で、クリーンな時計にしようと決めた2人は、何ができるかを考えた。フェルディ氏が言うように、完璧を乱すことはできない。
ブレスレットは取り外せるので専用のストラップを用意すればデザインのオリジナリティを保てるが、この時計はラグが一体化しているため、NATOストラップを装着できるカスタムメイドのエンドリンクをまったく新たに設計した。このストラップは、極寒の過酷な環境でテストされたもうひとつの有名な時計、スピードマスター アラスカプロジェクトにインスパイアされている。2人は、レース中にジャケットの上や、セーターなどの防寒具の袖の上に時計を着用することを想定していた。フェルディ氏とティノ氏は、この時計を「身につける」こと、また「過酷な状況下で身につける」ことを意図していたのだ。
GPアイスレースは、シュトゥットガルトのポルシェミュージアムで管理されている車両が、展示室を出てサーキットで使用される珍しいイベントだ。さらに、50年代のアイスレースで使用されたヴォルフガング・ポルシェ博士の私物である550スパイダーも氷上で使用されるという。貴重この上ない。何百万ドルもする車をハードに使用することが禁止されていないのなら、クロノグラフ1を衝撃やGフォース、クラッシュ、そして時折飛び散るモーターオイルにさらすことも禁止されていないのだろう。
もし、このクロノグラフ1 GPアイスレースモデルを見つけたら、ぜひ裏返しにしてケースバックのネジを調べてみて欲しい。秘密のイースターエッグが隠されている。それは、あなた自身の目で確かめてくれ。